和歌と俳句

椿の花

落椿美し平家物語 虚子

地に近く咲きて椿の花おちず 蛇笏

花の数おしくらしあふ椿かな 青畝

椿咲いて乙女次善を得たりしよ 草田男

一花揺れ二花揺れ椿みんな揺れ 立子

落椿紅白にして尽大地 虚子

椿落つ妬心の闇にかさね落つ 万太郎

八重椿漁港二月の風鳴れど 秋櫻子

椿咲き悉皆忘却の茶に参ず 秋櫻子

紅椿びつしり防風林をなす 誓子

椿咲く崖を下り来て親不知 誓子

椿大樹我に面して花の数 虚子

玉椿わが身痩せつつ咲きこぞる 風生

百年を経し鏡葉や白椿 秋櫻子

落椿くもる地上の今日の紅 多佳子

底は冥途の夜明けの沼に椿浮く 三鬼

椿落ちてころがる暗き机の下 不死男

蕋に雨うつむき椿うつむいて 鷹女

墓原や椿咲くより散りたがる 鷹女

椿一重死は生き生きと蕋の中 鷹女

我が頭穴にあらずや落椿 耕衣

椿咲く崖を下り来て親不知 誓子

釣橋に椿を持ちしわが重み 不死男

こち向きて風雨の中の赤椿 立子

金の蘂巨き椿に今日溺れむ 波郷

風に舞ふ白椿そは都鳥 波郷

曙の泛ぶ椿は狩衣 波郷

半眼に椿憂きまで満ちにけり 波郷

椿祭主客三人に過ぎざれど 波郷

玄海を隠す軒端の風椿 青畝

語尾を引くアーメン椿落ちさうに 不死男

仰向いて雲の上ゆく落椿 鷹女

椿落つむかしむかしの川ながれ 鷹女

落椿天女は剥げて隠れけり 静塔

紀の椿飛びて磯菜にころびたり 青畝

肥後椿深井ゆたかに汲みこぼし 汀女

白椿ひそやかなるは人語かな 汀女

病床にけふの椿は明石潟 波郷

句会まだ詩箋よごさず庭椿 爽雨

部屋々々の壺の椿の八重ひとえ 爽雨

白椿主治医祝ぎ言賜ひけり 波郷

馬上に椿持つドン・キホーテならば槍 不死男

受洗後のさま全容の落椿 不死男

白椿禅寺すべて洗ひざらし 静塔

こごえゐし雨滴こぼしぬ白椿 汀女

夜を白き椿心を納む刻 汀女

一とせの契愛しく椿咲く 風生

水底に椿こたびは流れ去る 林火

釣橋に椿を持ちしわが重み 不死男

父よりはよき椿ぞの伝へのみ 汀女

紅椿荒石をもて荒瀬とす 誓子