春浅く年譜の稿のいま三十路
道よぎる恋猫の尾のいそがざる
手まくらの金ことに照る寝釈迦かな
句会まだ詩箋よごさず庭椿
部屋々々の壺の椿の八重ひとえ
買ひさげし棒のごときも苗木市
おん見目の滂沱のやまず甘茶仏
春暮るる欅片萌え総萌えに
無住寺へ帰郷の墓参春暮るる
つむりやや親子すずめの濃きあはき
鳴き通る雪間雪の上猫の恋
敷かれつつなづな花あげ雪の果
たんぽぽの二月の花の地にしづみ
雨にそひ雨のふりそひ柳の芽
火山灰に生ふしかとむらさき蕗のたう
もたらして夜をよく匂ひさくら餅
調度みな掌上のもの雛飾る
卒業のをさなの答辞師に添はれ
入学の朝の洗面水をはね
山吹を活くる肩の辺花あふれ
皿洗ふ音も春宵さまたげず
みちのくの苗代の辺にその寒さ
苗田あり大和古道そひ濡るる
初蝶の丘に国見をして久し
荒格子顔うつ修二会詣でけり