湯けむりのくまどる宿も谷おぼろ
おぼろ夜の月としもなく一にじみ
尼が門の低きを開けて彼岸来る
春雷にたかぶりしまま稿起す
雲雀みる右手に左手に小手をかへ
山笑ふ遠き雪嶺裾にのせ
ひこばえの一初花もおくれなく
初花の老幹いよよわだかまり
やどり木の濃みどりこめて満ちし花
一稿の成るあとさきを花下に出て
わが戸にもおよべる落花踏み戻る
ちりそめし花に草々座をひろげ
杖とどき手とどく花にたもとほる
ふぶかんとしてやむことも曇り花
手招きに出て二日月花ゆふべ
夕べ出て花下のポストへ一花信
幹そひに蚊ばしら一縷夕さくら
花冷の花のかたまりつつ暮るる
行くほどに月夜櫻の色を作す
畳目のうきたつ疲れ花もどり
吊りそめし小部屋のすだれ花の昼
参道の長手のかぎり落花敷く
花冷の門の仁王の壊えすすむ
夕波の瀬田の花冷帰らなむ
盥噛んで瀬戸より到りさくら鯛