日をへつつ初蝶のあと蝶を見ず
あてどなき猫の恋鳴きしそめけり
塵の如こころもとなく蒔く種も
菊の根の長根さびしく分けらるる
やうやくに春の月代黄なりけり
のぼりつつ春月つつと尾根つたふ
椿見る病後の足に土ゆらぎ
一輪の椿一樹に吹きもまれ
茎立てり古藁塚のうなづきに
男手に館そびえしめ雛かざり
雛壇の玉階いまだ踏まれざる
外は雪の雛のしづけさうべなひつ
囀りに芭蕉は菰を着つつ倦む
杉山の杉の一穂に囀るも
村医なほ毛ごろも脱がずさくら餅
葉をたたむしぐさも櫻餅の宵
膝先におく葉ちらす葉さくら餅
つばめ来てつばさに雨の見えて舞ふ
燕来て小田の光りにまぎれ下り
羽を浸すばかりに水うち初つばめ
鳴きかはす声一鼓づつ初蛙
寝椅子おく病後の書斎昼蛙
啓蟄の甕には金魚明りゆれ
山々に雲居を平ら春の雨
句座にして今のまどろみ春の雨