水取も十日の磴に火屑つむ
枝々の乾くにすずめ庭雪解
啓蟄の蟇鳴き雨も音にいづ
宮址見る遅き日まろびやまぬ野に
雲雀野に宮址発掘みだれ見ゆ
池に石打ちて去るのみ廃寺春
ねはん図の嘆きのかぎりなくて辞す
画室春宵パレットのごと床汚れ
野の池もえりたつ近江鳥雲に
木の芽食む鷽の胸紅数しれず
眼白きてみどりまぎれず山桜
白波のむれて観潮刻を得るつ
観潮の船を打ちつつ渦見ゆれ
離々として志度寺の諸堂花の昼
磴のぼる杖音ひとつづつ遍路
春惜しむ膝の能面昨日舞ひし
春惜しむ手の能面を紐ながれ
高きよりはじまる垂れ枝柳の芽
芹を摘むこの旅もどる旅の料に
瀬の石に洗ひのせつつ芹匂ふ
初音聞く庭のなぞへに身を支へ
踏青の靴を古草くつがへす
おぼろ夜の声やむ妻の来し蟇か
鶴帰るみちの天草嶺をきざむ