和歌と俳句

皆吉爽雨

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

水取も十日の磴に火屑つむ

ひばり落つ御陵に飛鳥めぐり終ふ

枝々の乾くにすずめ庭雪解

啓蟄の蟇鳴き雨も音にいづ

宮址見る遅き日まろびやまぬ野に

雲雀野に宮址発掘みだれ見ゆ

池に石打ちて去るのみ廃寺春

ねはん図の嘆きのかぎりなくて辞す

画室春宵パレットのごと床汚れ

野の池もえりたつ近江鳥雲に

木の芽食む鷽の胸紅数しれず

眼白きてみどりまぎれず山桜

白波のむれて観潮刻を得るつ

観潮の船を打ちつつ渦見ゆれ

離々として志度寺の諸堂の昼

磴のぼる杖音ひとつづつ遍路

春惜しむ膝の能面昨日舞ひし

春惜しむ手の能面を紐ながれ

高きよりはじまる垂れ枝柳の芽

を摘むこの旅もどる旅の料に

瀬の石に洗ひのせつつ匂ふ

初音聞く庭のなぞへに身を支へ

踏青の靴を古草くつがへす

おぼろ夜の声やむ妻の来し蟇か

鶴帰るみちの天草嶺をきざむ