和歌と俳句

中村草田男

美田

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椿咲いて乙女次善を得たりしよ

初花の夕花はたらく娘等帰る

業閑に花盗人を眺め居る

花盗人犬に追はれぬ勢一杯

別れ霜女家族の魚好み

母が重き眉揚げしめむ石鹸玉

大工の帰路を農女見送り夕雲雀

初鰹双生児同日歩き初む

雨の迎火幼なの傘に煙こもる

四季薔薇淡し「直接の友」又欠けて

葭切尚ほ鳴く「死は与ふ眠は与へず」と

爽涼の愛なりき鼻梁一筋に

勿忘草「蒼白傲岸婦女」いまも遥か

柿若葉一家坂棲み芸の人

咲き切つて薔薇の容を超えけるも

白堊ヴィナス戦後はセルの季とてなく

かきつばた旗幟同じき明るさに

孔雀草早起き幼なの顔そろひ

蜩や塵紙鼻へやはらかし

向日葵や妻をばグイと引戻す

掃苔の苔の色こそ悲喜一色

ただ必然不時の死と春雪と

丈高き死や春の雪これを裹む

別れの春雪狭き日本の骨稜に

「結晶」と「しらべ」の命よ六花の雪