信の座か夏炉の左の母の座は
くどからぬ夕立に道濡れ友恋し
花合歓に風も物言ひ突然激し
百日紅追はれ心は昔より
秋曇売れし後拭く屋台店
稲刈を見渡す老婆眼鏡のまま
前後は海親子千鳥の長干潟
親千鳥佇つ影子千鳥走る影
歴々と親子千鳥の水鏡
子千鳥の親を走せ過ぎ走せかへし
母鳥の長跂に副ひ子の千鳥
蟹雌雄我慢の紅爪天へかざし
勝ち誇る子をみな逃げぬ赤のまま
原爆忌いま地に接吻してはならぬ
群蟹や独り据ゑられ人魚像
雁仰ぐいくばく年を距ててぞ
雁列の鉤になりゆく濃くなりゆく
雁行く方宵の新月来つつあり
新月一ついのちあまたの雁の列
遠足へ未明の声の誘ひ合ふ
艶に無色や田打ちつづけて解くる帯
師走の父大櫛末子を梳る
松島流燈ただみる悲喜を丹青光
流燈無風故旧と戦没いまねむれ
松島流燈不動のままや寝られず