和歌と俳句

中村草田男

美田

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信の座か夏炉の左の母の座は

くどからぬ夕立に道濡れ友恋し

花合歓に風も物言ひ突然激し

百日紅追はれ心は昔より

秋曇売れし後拭く屋台店

稲刈を見渡す老婆眼鏡のまま

前後は海親子千鳥の長干潟

親千鳥佇つ影子千鳥走る影

歴々と親子千鳥の水鏡

子千鳥の親を走せ過ぎ走せかへし

母鳥の長跂に副ひ子の千鳥

雌雄我慢の紅爪天へかざし

勝ち誇る子をみな逃げぬ赤のまま

原爆忌いま地に接吻してはならぬ

群蟹や独り据ゑられ人魚像

仰ぐいくばく年を距ててぞ

雁列の鉤になりゆく濃くなりゆく

雁行く方宵の新月来つつあり

新月一ついのちあまたの雁の列

遠足へ未明の声の誘ひ合ふ

艶に無色や田打ちつづけて解くる帯

師走の父大櫛末子を梳る

松島流燈ただみる悲喜を丹青光

流燈無風故旧と戦没いまねむれ

松島流燈不動のままや寝られず