和歌と俳句

中村草田男

美田

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末子の丈へ跼みては夏賞でにけり

若燕倉中の酒未だ醸れず

子のための又夫のための乳房すずし

臥せてある菅笠へ田の声通ふ

早乙女や街道の砂利いたがりつつ

帰省の卓目のある魚のさまざまに

緑蔭のつどひに参じ風下に

水平座さがして陋屋に西瓜置く

腮引いてをみなの欠伸百合蕾む

夕日を前鵙の仔迫らず迫られず

母の手恋し揉んでッと押す盆団子

淑やかや磨きしごとき新小豆

内赤き古椀に盛り新小豆

向日葵や登る人来れば登り坂

低き雷主の血は血として若かりし

きりぎりす舌の根打つて誓言す

炎天やこと待ちとほす墓の群

燈籠や可憐になりては友等死せり

鐘の音や箸待つのみの夏料理

我が歯一つ末子に示し露へ投ぐ

島椿学ばざりし明眸吸ふごとし

青簾疲れし者なき代の如く

励める顔節あるごとき汗流る

富士やもの高めあふ夏景色

夏富士や長女野の家宰領す