負犬去れば眼をしばたたき枯野犬
鳥語解せず早春勤勉自誓せる
この乱世に読めば春愁「報恩記」
三日月やものより逃ぐる祷りならず
畳店青き香に満ち七五三
初雲雀けふ歩き居る開拓者
春景を見廻はしあひつつ子を語る
つくづくし筆一本の遅筆の父
桃の花窓から粉が飛ぶ製粉所
黒雲から黒鮮かに初燕
己を突如見つけし声に揚雲雀
女の学校紅旗かかげて花茨
女の一語男等よろこぶ山桜
都の空をたまの群鴉やおそざくら
髪の奥から奥からの妻の汗
揺れつつ海へ伸びゆく道や子供の日
子供の日竜骨の間を縫ひ遊ぶ
葭切高音釘打つ音も拍手も
薄暑街頭鶏卵砕け人心乾きたり
亀へ落花神居る頂上は暗からん
春陰や木彫の竜もその雲も
水田の夫婦抜足の辺に差足して
水と油あらがふしばし梅雨の床
一像梅雨に濡れゆく次第人さながら
航つづく早滝遅滝海へ墜ち