遠足の疲れの指を二本咥へ
紅芙蓉枝の向きむき四山退く
枝垂れ林檎よき個人あり今の世に
秋日は放射七面鳥は示威に倦まず
なまなかの鰯雲なり見捨てたり
ビルの前空は負はねど柿のつや
今日に絵に黄の絵具尽き秋落日
夜半永し真上の月の久さに
夜半の月と稀なる星と随ききたる
朱鷺は世に迹絶ち恩友月へかへり
月色に咽せつつ一木音もなし
盆大の月影さざれ湧く水や
一つ葦水際一環月びかり
そよ風も押さずて月の川流る
地上悲囚の金貨と小さし淵の月
詩の湧きつぐことが詩十一月の薔薇
少数に深く教へて柚子の軒
捨科白めく唾吐けば鵙嘖す
渡り鳥一点先翔く愛と業
渡り鳥ひろがり降りて五樹の縁
寒鯉の背鰭や撫すになびきつつ
寒鯉雄々し黒天鵞絨の座布団も
逝きしをいたみ生きんと誓ひ寒鯉切る
遠望無し冬霧に揺れ一炊煙