和歌と俳句

中村草田男

美田

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遠足の疲れの指を二本咥へ

紅芙蓉枝の向きむき四山退く

枝垂れ林檎よき個人あり今の世に

秋日は放射七面鳥は示威に倦まず

なまなかの鰯雲なり見捨てたり

ビルの前空は負はねどのつや

今日に絵に黄の絵具尽き秋落日

夜半永し真上の月の久さに

夜半の月と稀なる星と随ききたる

朱鷺は世に迹絶ち恩友月へかへり

月色に咽せつつ一木音もなし

盆大の月影さざれ湧く水や

一つ葦水際一環月びかり

そよ風も押さずて月の川流る

地上悲囚の金貨と小さし淵の月

詩の湧きつぐことが詩十一月の薔薇

少数に深く教へて柚子の軒

捨科白めく唾吐けば嘖す

渡り鳥一点先翔く愛と業

渡り鳥ひろがり降りて五樹の縁

寒鯉の背鰭や撫すになびきつつ

寒鯉雄々し黒天鵞絨の座布団も

逝きしをいたみ生きんと誓ひ寒鯉切る

少年死処暁の初雪既に消え

遠望無し冬霧に揺れ一炊煙