胸へ胸へ帰帆の数海燕
香は橘他郷ながらも南の夜
青芦は自ら立錐余地も無し
発動船の心音去来行々子
玄関から灯からすぐ消えセルの友
父外国に母里にありや閑古鳥
母の日やけふは熟路を歩まんか
菜の花日和母居しことが母の恩
詣で人貝塚掃くよ漁夫の墓
少年の焦燥あめんぼうのにほひ
天からきた影を布置して麦の秋
ここにしばし拡げし指の間緑気織る
田植終りぬ円空へ田舟底平ら
奏でる海へ音なく大河勿忘草
何も問はねど横顔の薔薇薫りくる
葱坊主大きな弟を肩ぐるま
軽羅の末子門前無人の一と踊
雌伏の頃の友住みし町初苺
畳屋兄弟肘うち揃へ盆仕事
葉桜や末子が追ひ来て橋鳴らす
葉桜や後へは還れぬ黒き川
名声消さず為事せぬ人アマリリス
午笛の遅速に何の優劣夏来迎ふ
父の仕事の音くるあたり昼寝の子
田植すすむ球場勝点崇みつつ