和歌と俳句

閑古鳥 かっこう

戸隠の少年馬上閑古鳥 林火

濯ぐ指郭公鳴いて仄めきぬ 知世子

朝の郭公砂の轍のまだ崩えず 草田男

灯るごと梅雨の郭公鳴き出だす 波郷

郭公も唯の鳥ぞと聞き馴れし 虚子

郭公や瑠璃沼蕗の中に見ゆ 秋櫻子

雲垂れて郭公これにひびかへり 秋櫻子

郭公や浅間の裾が雲を出づ 秋櫻子

郭公や烏城にのこる角櫓 秋櫻子

郭公や露地に西日の旅ごころ 龍太

肌遠き湯の女らに閑古鳥 龍太

郭公や明さとなるか北の蒼 多佳子

耶馬はまだ古簗ばかり閑古鳥 爽雨

郭公啼くかなたに知己のあるごとし 蛇笏

戦禍まぼろし野を透く夜の閑古鳥 龍太

郭公や卓上酒中の詩を信ぜず 草田男

郭公啼く青一色の深山晴れ 蛇笏

郭公や牧夫の貌が鬚の中 秋櫻子

磐梯へ翔けし郭公戻り鳴く 秋櫻子

父外国に母里にありや閑古鳥 草田男

郭公の谺し合へりイエスの前 林火

谺にはあらず郭公谷距つ 悌二郎

み吉野の青八重垣や閑古鳥 青畝

郭公や仮寝の顔に手巾蔽ひ 悌二郎

移りざましかと郭公鳴きつづく 爽雨

郭公の拙き声を試みぬ 波郷

郭公や時計の声は箱の中 静塔

郭公を待てば応ふるはるかかな 風生

郭公のさも郭公といふ遠さ 風生

嶺にくだる雲ゆ郭公鳴きいそぐ 爽雨

牧にして郭公のかつ翔くるあり 爽雨

郭公の遠さ水源林といふ 林火

郭公や霧また海を奪ふとき 汀女