合歓咲けば母のおもほゆゆえしらず
合歓の雨記憶の母のあゝうすれ
合歓の花母のよはひをわが超へぬ
山をゆき谿ゆきいく日蝉聞ける
夜の湯壺鳴る瀬と蝉の聲しげく
天は灼け山裂けとべる斯かる日か
みぢか夜の一と夜の湖が波を刻む
夏日照るこの蒼湖にわれら漕ぐ
あを柿や Hideyo Noguchi 此処に生れし
桑老ひぬ少年英世これを摘みし
かの爐見ゆかたむく軒を夏日洩れ
夏薊硫黄ふつふつ地に燃ゆる
夏薊はるるとき富士鮮たなる
寝たる街セルかろくして肌さむし
新樹の戸あけるを待つに夜のあらし
初蚊帳に子ら呼吸ながく寝しづまり
朝凉のあつき味噌汁ふきつ吸ふ
駅にたち朝凉の日にめまひせる
激雷のとどろき地殻波うてる
戸の隙に雷火燃へつつ子ら寝たり
雷鳴の子らの眠りにさはりなし
雷去りぬ雷のにほひの戸をひらく
浮間百合花をたりつつかすかなれ
浮間百合蕗のしげりていつかなし
舟ゆるる昼餉の日覆かかぐべく