和歌と俳句

篠田悌二郎

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青ざめて人らあゆめり朴の花

灯蛾舞ふをしたしみ目守りゐしこころ

蚊火尽きむ更けむとおもひ蚊帳を吊る

涼しさは巷音更けて絶えしとき

ひと夜さをひとり寝たれば明易き

ダリア燃え浅寝の眼にはゆらぐなり

明けやすき窓がうれしくあけはなつ

梅雨の窓にうたふがきこゆさびしきか

すでに咲くべくなりぬ日をかぞふ

もてあそぶうちはがしろく悔をさそふ

ガソリンがにほひ葉櫻蕚をふらす

草踏めばあをきがとべり青かへる

初夏の風干せし帽子をくつがへす

五月来ぬ朝の嗽は井を汲める

洗面器著莪のうつりて汲みあふる

園の花絶へしより夜々にほふ

にほひ夜の戸をたつもおくれがち

人が病むあをみなつきをにほふ

初蝉のにいにいが鳴き朝曇

虫捕る子夜の向日葵の貌に遭ふ

もどり来てわが家暮れゐし蝉の聲

樹々暮れて水打ち足せり蝉ひとつ