和歌と俳句

篠田悌二郎

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夏潮の照り囁かむときは過ぐ

旅愁のひとり離れて黙す夜の薄暑

短夜や窓搏ちゐしは藤の蔓

薫風や追ひすがり来し姫だるま

ライターの焔に眉焦すのあと

朴咲けり雪渓今は汚れ果て

晴れて雲に谷川岳の耳

栗咲く香怨み憎みて果忘れ

夕虹や千住はいつも町匂ひ

仙人掌に花や波乱の遠兆し

鷺の抜羽宙にただよふ梅雨曇

凛然と一羽高枝に梅雨の鷺

梅天の奥より来しが聖の鷺

夾竹桃みだれしんじつ価値なき日

絶え恍惚世界消え畢んぬ

闘ひの構へ愛にも兜虫

米搗虫跳躍繰りかへしても燈下

鍬形虫捕らはれてすぐ諦めず

尺蠖虫計りたがへし身を吊るす

もう青蛾らしく朝待つ翅平ら

川は靄梅雨鈴虫を鳴かす家

花了へし泰山木が欝ぎこむ