夏潮の照り囁かむときは過ぐ
旅愁のひとり離れて黙す夜の薄暑
短夜や窓搏ちゐしは藤の蔓
薫風や追ひすがり来し姫だるま
ライターの焔に眉焦す雷のあと
朴咲けり雪渓今は汚れ果て
雷晴れて雲に谷川岳の耳
栗咲く香怨み憎みて果忘れ
夕虹や千住はいつも町匂ひ
仙人掌に花や波乱の遠兆し
鷺の抜羽宙にただよふ梅雨曇
凛然と一羽高枝に梅雨の鷺
梅天の奥より来しが聖の鷺
夾竹桃みだれしんじつ価値なき日
蛍絶え恍惚世界消え畢んぬ
闘ひの構へ愛にも兜虫
米搗虫跳躍繰りかへしても燈下
鍬形虫捕らはれてすぐ諦めず
尺蠖虫計りたがへし身を吊るす
もう青蛾らしく朝待つ翅平ら
川は靄梅雨鈴虫を鳴かす家
花了へし泰山木が欝ぎこむ