和歌と俳句

大野林火

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足許にゆふぐれながき韮の花

櫻の実垂れて暮れざり母の町

梅雨の傘北陸びとに交りさす

額の母夕顔開く闇に向き

天を灼く積乱雲の育つ峡

飛騨涼し北指して川流れをり

飛騨涼し朴の葉にのせものひさぐ

蝉しぐれ庇の下を通い路に

飛騨人に夏白妙の朴葉餅

昂りてのぼる峯雲赤子泣き

沖白波にさそはれて海女単衣着る

夜半のいのち賭けし句なほ選ぶ

たかんなや学僧の眉一文字

白団扇旅寝の妻の胸の上に

夏炉に見る火山へつづく月の道

葉の上に花影を置き深山

鰻簗木曾の夜汽車の照らし過ぐ

木曾馬に山坂ばかり青胡桃

木曾人や蚊遣を腰の畑仕事

麦刈りてたばね光りの束となす

蘆間より蟹出で蜑の家ともる

郭公の谺し合へりイエスの前

七月や銀のキリスト石の壁

早祷や赤松の根に夏の露