和歌と俳句

大野林火

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土気吸ふて肺太らせぬ梅雨月夜

麦刈女汗に張る目の泣けるとも

主峯より風おろしきて散らす

水明りの幹にただよひ朴散らす

蝉時雨木彫佛の縦の木肌

灼くる嶺よし青年の肩見るごと

炎天に怒りおさへてまた老うも

蘆の花かがみて男笛習ふ

水の上に五月のわかきいなびかり

花柘榴雨きらきらと地を濡らさず

花合歓に夕日旅人はとどまらず

深山沼ここを離れぬとぶ

鯖漁る火命惜しめと沖に殖ゆ

波打つて昆布干されぬ尻屋岬

雲夏めき草に背を擦り背掻く馬

子連れしは若きも泰し夏薊

青胡桃流水の音はつねに力

夏炉燃え旧知の猫も寝そべれり

朴の花安居に入れる天に咲く

明易く腕のしびれに涛ひびく

稿すすむ夜半サボテンの花も大

茄子に舌焼く信州おやきは手掴みに

青嶺聳つふるさとの川背で泳ぐ

万緑や山中に見る立峠

ひるがほや櫛作る窓のぞきこみ

水打つ木曾谷の天青きこと