和歌と俳句

大野林火

6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

晩涼やさびしきまでに草の丈

夏は殊に芭蕉広葉の影好む

蜂あまたゐてひまはりの花芯細し

晩夏光刃物そこらにある怖れ

蝉しぐれ樹々は泉石かき抱き

あほぞらへ蝉音放てり野の一樹

早乙女を昼見きゆふべ月を見き

炎天を来て湯を浴びる音を立て

葛山を占むる晩夏の汽車の笛

蟇鳴くを夜のしらせとして灯す

葭切や蔵書のみなる教師の死

雷雲を待つや野茨のしづけさは

腰高の仔牛西日がまだ眩しげ

波くぐるかに晩涼の灯の浸る

夜も出づるよ疲れは妻も負ふ

セルを着て手足さみしき一日かな

田を植ゑてきし若者と月を見る

帚草余生の母に夜も青し

合歓老いぬ父この海に吾を抱きし

灼くる葉を樹頭にしたり 湧く

いや白きは南風つよき帆ならむ

海によろこびあり雲の峰うつりをり

耳遠く端居を好む母となれり

百日紅この叔父死せば来ぬ家か

晩夏ながし一木一草なく住めば