和歌と俳句

蟻のいづ虫明の瀬戸桜貝 才麿

夕立にはしり下るや竹の蟻 丈草

袖に見むみよしのゝ蚤三輪の蟻 暁台

蟻の道雲の峰よりつづきけり 一茶

子規
雲の峰空に立つ日は餌をはこぶ蟻のなりはいいそがしきかな

茂吉
うつし世は一夏に入りて吾がこもる室の畳に蟻を見しかな

雷落ちし跡と見る蟻の道ついて 碧梧桐

蟻の国の事知らで掃く帚かな 虚子

蟻地獄に遠しつぶらなる蟻 碧梧桐

樹肌わたる蟻に早やある暮色かな 石鼎

井桁朽つ根に穴あけて蟻の道 石鼎

夏草に土盛りあげて蟻の塔 泊雲

浜風や砂と争ふ蟻の脚 石鼎

蟻土に今碧天を烏とぶ 石鼎

牧水
蟻の虫 庭這ひめぐり 群がれる 真黒き姿 眼にいたきかな

牧水
蟻の虫 庭這ひめぐり 日に透きて 青き葉蘭の 葉かげにも見ゆ

茄子の葉を蟻飛び移り這ひにけり 花蓑

塵取るや又つながりし蟻の道 青畝

芝原や仔細に見れば蟻の国 喜舟

空暗く垂れ大きな蟻が畳をはつてる 放哉

蟻を殺す殺すつぎから出てくる 放哉

かぎりなく蟻が出てくる穴の音なく 放哉