和歌と俳句

若山牧水

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ひと畑の 蜀黍は痩せて 実をもちつ わがのはただに 青みしげれり

桃色の 緋桃のいろの 耳朶の 少女は泳ぐ 辺浪がなかに

岸辺こそ 浪は繁けれ 沖辺さし 泳ぎてゆけや 耳あかき子よ

の虫 庭這ひめぐり 群がれる 真黒き姿 眼にいたきかな

の虫 庭這ひめぐり 日に透きて 青き葉蘭の 葉かげにも見ゆ

繁山の しげりて黒き 愛鷹の 峰のとがりの 夏の色濃さ

片空に 凝りゐる雲の 下かげに 長き尾ひけり 富士の裾野は

みじか夜の いまだ小暗き 明方の とほ山に湧く 雲の真白さ

なくや 西ゆひがしゆ 庭の木ゆ 或は軒端の 廂ゆ聞ゆ

灯火の とどかぬ庭の 滝の音を ひとりききつつ 戸をさしかねつ

水口に つどへる群の くろぐろと 泳ぎて鮒も 水も光れり

鶺鴒 あきつ蛙子 あそび恍け 池にうつれる 庭石のかげ

まひおりて 石菖のなかに ものあさる 鶺鴒の咽喉の 黄いろき見やり

庭石の ひとつひとつに 蜥蜴ゐて 這ひあそぶ昼と なりにけるかな

日の光 つゆけき朝の 豆畑の なかみちゆけば 埃立つなり

木槿 むらさきに咲く 裾野村 石ころ路を 日暮下れり

みそ萩の 花さく溝の 草むらに 寄せて迎火 たく子等のをり

みそ萩の 花にほこりの ほのみえて 葉がくれにゆく 水の音きこゆ

盂蘭盆に 今宵ありけり みそ萩の 花咲く溝を 見つつ思へば

竹やぶに 鶏をりて ものあさる けはひ久しき 夏の夕ぐれ

畦に立つ 蜀黍の葉の 長き葉の 垂りてつゆけき 今宵の月夜

とびとびに 立ちてさびしき 月の夜の 蜀黍は見ゆ 桑畑の畔に