和歌と俳句

若山牧水

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橋こえて 入るわが門の 庭路に 植ゑならべたる コスモスの苗

借り住ふ ふるき邸の くまぐまの すたれし園に 時の花咲く

時くれば 咲きつぐ花を 八重むぐら 荒れたる庭に 見つつ楽しき

いま咲くは 色香深かる 草花の いのちみじかき 夏草の花

朝夕に つちかふ土の 黒み来て 鳳仙花のはな 散りそめにけり

鳳仙花 いろとりどりに 取り置かむ 種を選ぶと しめむすぶなり

飯かしぐ ゆふべの煙 庭に這ひて あきらけき夏の 雨は降るなり

はちはちと 降りはじけつつ 荒庭の 穂草がうへに 雨は降るなり

にはか雨 降りしくところ 庭草の 高きみじかき 伏しみだれたり

渋柿の くろみ茂れる ひともとに 滝なして降る ゆふだちの雨

こもりゐの 家の庭べに 咲く花は おほかた紅し 梅雨あがるころを

焚く香の にほひほのかに こもりたる 夏ごもりのわが 部屋をよしとす

怠けゐて くるしき時は 門に立ち 仰ぎわびしむ 富士の高嶺を

怠けつつ 心くるしき わが肌の 汗吹きからす 夏の日の風

心憂く 部屋にこもれば 夏の日の 光わびしく 軒にかぎろふ

なまけをる わが耳底に 浸みとほり 鳴く蝉は見ゆ 軒ちかき松に