脚ほそき 鶺鴒鳥は 岩蔭に わがをる知らず 岩の上に啼く
水あげて 瀬に立ちならぶ 石ごとに 糞して遊ぶ 鶺鴒鳥
羽虫まつ 河鹿が背は 痩せやせて 黒みちぢめり 飛沫のかげに
淵尻の 岩端にゐて 羽虫とる 河鹿しばしば 水に落つるなり
目ざめゐて 夜半の暑きに 耳を刺す 蝉の声おほし 家のめぐりに
夜をさわぐ をちこちの蝉の けうときに 馬追虫は 蚊帳に来て鳴く
何はなく たべむと思ふ たべものも 秋めくものか こもりてをるに
畑なかの 小径をゆくと ゆくりなく 見つつなつかしき 天の河かも
天の河 さやけく澄みぬ 夜ふけて さしのぼる月の かげはみえつつ
うるほふと おもへる衣の 裾かけて ほこりはあがる 月夜のみちに
野末なる 三島の町の 揚花火 月夜の空に 散りて消ゆなり
園の花 つぎつぎに秋に 咲きうつる このごろの日の しづけかりけり
うす青み 射しわたりたる 土用明けの 陽ざしは深し 窓下の草に
秋づきし もののけはひに 人のいふ 土用なかばの 風は吹くなり
愛鷹の 根に湧く雲を あした見つ ゆふべみつ夏の をはりと思ふ
明け方の 山の根にわく 真白雲 わびしきかなや とびとびに湧く