和歌と俳句

若山牧水

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年月の つかれ出で来て わが病めば 咲きてあざやけき 夏草の花

むしあつき 梅雨あがり日を 風邪ひきて 汗ながしつつ 庭木見てをる

雨土用と 今年いふべき 雨おほき 夏をこもりて 風邪ひきくらす

生垣に 木がくりみゆる 門さきの 田植の人に 雨のふるなり

雨いよよ ふれば田植うる 人人の 寄りきていこふ わが門の木に

さやさやと 音たてて来し 雨脚の いま降りかかる 窓さきの木に

梅雨ふるや 瓶に挿せれば くれなゐの しみじみ深き ダアリヤの花

うす日さす 梅雨の晴間に 鳴く虫の 澄みぬるこゑは 庭に起れり

雨雲の 低くわたりて 庭さきの 草むらあをみ 夏虫ぞ鳴く

一重咲 ダリヤの花の くれなゐの 澄みぬるかなや 梅雨ばれの風に

真白くぞ 夏萩咲きぬ さみだれの いまだ降るべき 庭のしめりに

雀とると 飽かぬ仔犬が たくらみの 小走りをかし 梅雨の晴間

この朝を 事あるらしき 燕の さへづりきこゆ 庭木の風に

苔のうへ 這ひゆく蟻に 心とまる このわびしさの なほ深めかし

わが門の まへうちわたす 狭青田の はるけきかたに 田草とるみゆ