和歌と俳句

若山牧水

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犬呼びて もの与へをれば 縁さきの 芝生に雪の 降り積りつつ

大雪は 沼津にも降らむ 驚きて 眺め入りたる 妻をしぞおもふ

心なき 泊りの人の 足音を 夜半更けて聞く いでゆの宿に

暁近き 月の青みを 宿したる 玻璃戸の蔭の 湯には浸れる

この国に 珍しき雪に 驚きて 迷ひ出でし鹿は 里に射られつ

合歓の木ぞ ひともとまじれる 杉山の 茂みがあひに 花のほのけく

まなかひに 湧き出でし雲の たまゆらや 浮べる見えて 消えてあとなき

盃に 立つ湯気よりも あはれなれ 湧きて消えゆく 峡のうす雲

湧き昇る 雲ばかりにて 一すぢの 乱るるとせぬ 峡の朝雲

葉がくりに あるはまだ青し あらはなる トマトに紅の いろさしそめて

一枝に 五つのトマト すずなりに なりてとりどりに 色づかむとす

汲み入るる 水の水泡の うづまきに うかびて赤き トマトーの実よ

水甕の 深きに浮び 水のいろに そのくれなゐを 映すトマト

舌に溶くる トマトーの色よ 匂ひよと たべたべて更に 飽かざりにけり

一人釣る 小笠の人の 立すがた あざやけきかな 沖の小舟に

向つ岸 駿河の国の 長浜に 浪の立てれば 間近くし見ゆ

かけ声の ただに冴えゐて 秋晴の 沖漕ぐ小舟 かすかなりけり

群れて啼く 入江の隈の 海鳥の 声澄みとほる 朝涼の風に

澄み来る 秋のゆふ日に 浮び出でて 入江向ひの 草山は見ゆ

さし汐の 入江のくまの 山かげに 浮かびてまろき 海鳥の群