和歌と俳句

若山牧水

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夜に昼に 地震ゆりつづく この頃の こころすさびの すべなかりけり

月越えて なほ揺りつづく 大地震の 今宵も搖るよ この静か夜を

眼の前の 電燈の灯を ゆりすてて 地震すぎゆきぬ この静か夜を

わがむすめ 六つになれるが いたいたし なゐにおびえて 痩の見えたる

朝宵に 相見る妻を 子供等を まもりつつかなし 地震のしげきに

名残なる 壁のやぶれの 冬はなほ 目につくものを なほゆるる地震

時雨ぞと おもふこころの 静けきに 今朝の曇の 親しかりけり

部屋出でて ふと見やりたる 庭のおもに 時雨降りゐて 明るかりけり

ガラス戸を さして篭れば 時雨の日の ほの明るみは 部屋をつつめり

ひたき啼く ころとはなりぬ いつしかに 庭の木の葉の 散りつくしゐて

年ごとに 時としなれば わが庭に 来啼くひたきの 声のしたしさ

部屋にゐて 聞けばひたきは ただ一羽 ひもすがら啼く 庭をめぐりて

柿の葉の 落葉のもみぢ 色あせず 明るき庭に ひたき啼くなり

庭草の 枯れしがなかに 居るとばかり 低きにをりて ひたき啼くなり

若竹の 伸びゆくごとく 子ども等よ 真直ぐにのばせ 身をたましひを

をさな日の 澄めるこころを 末かけて 濁すとはすな 子供等よやよ

老いゆきて かへらぬものを 父母の 老いゆくすがた 見守れや子等