和歌と俳句

若山牧水

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麦畑の うね間の瓜は みのりたり 麦も刈るべく いま色づきぬ

刈り乾せる 穂麦には見えで 畝のあひの 茄子の葉に露の むすびたるかも

豚の子の 檻逃げ出でて おぼつかな 瓜畑ゆくよ 丸く真しろく

板橋の 板に苔むし おぼつかな 渡りゆけば近く 鮎ぞとぶなる

朴の木と 先におもひし 近づきて 霧走るなかに 見る橡若葉

立ち掩ふ 木々の若葉の 下かげに そよぎて咲ける 山あぢさゐの花

花ちさき 山あぢさゐの 濃き藍の いろぞ澄みたる 木の蔭に咲きて

幹ほそく 伸びたちたれば そよ風に そよぎやはらかき 山あぢさゐの花

声ありて さまよへるかも つづきあふ 尾根の奥処の 筒鳥の声

まなかひの 若葉のそよぎ こまやかに そよぎやまなく 筒鳥きこゆ

まなかひに 老樹の樅の あらはれつ 消えつ真寂し 霧の渦のなかに

霧の海 とよみこもれる 底にありて 移りつつ啼く 郭公聞ゆ

移し植ゑし 竹は根づきて やはらかく 葉をかへにけり この水無月に

時はやく 青葉がしたに 咲き出でて 色あはつけき 庭桔梗の花

トマトの くれなゐの皮に ほの白く 水の粉ぞ吹ける この冷えたるに

青すすき ゆたかになびく かげに咲きて うすくれなゐの 撫子の花

ふるさとの 村ざかひなる 野の路を おもひぞいづる 女郎花見れば

いまだ 花をとぼしみ なよやかに なびかふ枝ぞ 葉ぞうつくしき

枝垂れたる のすがたぞ やさしかる 花もおほかた 葉ごもりにして

浅茅生の 岡のひなたに 鳴く蟲の 声うつつなくて 松蟲草の花