和歌と俳句

若山牧水

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麦の色 親しきまもよ 穂も茎も ひとしなみなる 熟麦の色

吹き立ちて 走る風見ゆ 青葉若葉 うづまき茂る 向ひの山に

立ちまじる とりどりの木に 風ぞ見ゆ 松は静けき 青葉の山に

おしなびけ 風こそ渡れ 栃若葉 くぬぎ若葉の 見わかぬまでに

屋根の上を さし掩ひたる 老松の 小枝にあそぶ いしたたき鳥

この老松に 松かさおほし 小さくて 黒み帯びたる 松かさの数

梅雨晴の 日ざしさしとほる 池の隅に 静かなるかも 鯉ぞ群れたる

桑の葉は 柔らかきかも 伸べば直ちに 刈りとられゆく 桑の葉の色

青葉若葉 花はくれなゐの 柘榴の木に 尾長鳥あそぶ 長き尾垂れて

山に雪降り 里はあんずの 花ざかり 尾長鳥あまた 群れてあそべる

枯草の あらはに残る 荒野原 かすかなるかも 郭公の声は

からかさを 傾けて聞くや 雨さむき 枯野のすゑの 郭公の声を

浅間山に それともわかぬ 煙見えて かすかなるかも 郭公の声は

長々しく うすみどりの房を たらしたる 胡桃の花を 初めてわが見つ

清らけき うす色の羽根よ 葭の原ゆ 啼きつつとべる 行々子見れば

葭の原ゆ まひたちきたり 落葉松の さみどりの枝に 啼けるよしきり

山の湯の そのわかし湯の えんとつの うへまひこえて 啼くほととぎす