和歌と俳句

高浜虚子

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重の内暖にして柏餅

目立たぬや同じ色なる更衣

昂然と泰山木の花に立つ

えにしだの黄色は雨もさまし得ず

見るうちに薔薇たわたわと散り積る

の穂の出揃ふ頃のすがすがし

此宿はのぞく日輪さへも

桑の実や父を従へ村娘

たたみ来る浮葉の波のたえまなく

藻の花や母娘が乗りし沼渡舟

釣堀の日蔽の下の潮青し

松魚舟子供上りの漁夫もゐる

老い人や夏木見上げてやすらかに

ユーカリを仰げば夏の日幽か

急がしく煽ぐ団扇の紅は浮く

玉虫の光を引きて飛びにけり

夏山やよく雲かかりよく晴るる

這ひよれる子に肌脱ぎの乳房あり

大敷の網に夏海大うねり

泳ぎ子の潮たれながら物捜す

へこみたる腹に臍あり水中り

親竹に若竹添へて三幹竹

坂なりにだんだん出来し

杉落葉して境内の広さかな

梅雨傘をさげて丸ビル通り抜け

休んだり休まなんだり梅雨工事

国中の田植はじまる頃なりし

蕊の朱が花弁にしみて孔雀草

己が羽の抜けしを啣へ羽抜鳥

バスの棚の夏帽のよく落ること

夏暖簾垂れて静に紋所

虻と蝶向き合ひすがる九階草

滴りの岩屋の仏花奉る

校服の少女くさく活発に

晩涼や謡の会も番すすみ

端居して垣の外の世を見居る

聞えざる涼み芝居を唯見をり

箱庭の月日あり世の月日なし

拝領のもの一竿や土用干

鵜の森のあはれにも亦騒がしく