同じ樹の 陰にやどるも さきの世の えにしと思へば をしき別れよ
あふことも かりの浮世の かりすまゐ さりとてをしき 別れなりけり
秩父てふ 峯より出づる 墨田川 かぎりしられぬ 戀もする哉
鐘の音に 夢さめはてて 浅草や 朝の別れの つらくもあるかな
吾妻橋 こがねのはしら つくるとも 誓かはらじ いもと我との
向じま 花さくころに 来る人の ひまなく物を 思ひける哉
名にしおふ 小梅の里に かぐはしき 名をや聞きつつ 見ずもこふらむ
うけぬとは 知れども祈る 三めぐりや めぐりあひたし 別れにし君
あふ時は うれしの森の 下露に また袖ぬらす わかれなりけり
洲さきとも いへばむかしは 海ならし かはるは君の 心のみかは
我戀は 秋葉の杜の 下露と 消ゆとも人の しるよしもなし
うき名をば たてじといのる 白鬚の 知らずとのみも いひておかまし
五月雨に なみだもそふや あやせ川 あやなく物を 思ふ頃哉
せかれては 谷間の水の 中々に いきほひのみぞ いやまさりける
世の中に なき名のたつや 都鳥 鳥に問へかし ありやなしやと
いかにせん うき名を流す 墨田川 すみたる水も にごるならひを
今はただ 名にしあひけり 都鳥 いざこと問ん そのかみのこと
もみじばの あやいをりなす 錦をば いつか我身の 上に見るらん
のこすとも つゐに散るべき ものならば 紅葉の錦 我も手折らん
うすくこく 紅葉ははそを こきまぜて 野山は秋の 錦なりけり
なくばかり いひ出んことも なみだ川 人のみるめの 多き世なれば
戀ならで 外にあるまじ 夢にさへ なげきをそふる むねの思ひは
わけそめて 深くもあらぬに かくまでも 迷ひにけりな 戀の山路に
あらはるる ものと知りなば はじめより 心つくして つつまざりしを