和歌と俳句

正岡子規

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志賀の浦や あしべの宿の 涼しきは ひらの根おろし 秋や立らん

あらくまの たけき心も いかにせん 山をはなれて をりのある身は

庭もせの 草木の影も 短くて はや中空に のぼる月かな

時雨ふる 冬としなれば 木枯の ふくとも見えず 木の葉ちる也

けものすら 門をもるとも しら浪の しらぬ心ぞ 犬におとれる

解きすてて 今は関路も なき世とは しらでや犬の 門まもるらん

別れては 外にたのしき 物もなし 玉にもまさる 君の玉づさ

明けくれに こひぬ日もなし 玉の緒の たえねばたえぬ 思ひなるらん

霜枯の 庭に残りし 竹の葉を ちからにさわぐ 玉霰かな

呉竹の ともすれもせぬ 夜をこめて 音たててふるは 霰なるらん

忘れんと すればいよいよ わすられず 夢もうつつも 君のみにして

夜をこめて 網代木による 音もなし 氷りやすらん 宇治の川波