和歌と俳句

向日葵を降り来て蟻の黒さ増す 三鬼

歩く蟻飛ぶ蟻われは食事待つ 三鬼

夜も出づる蟻よ疲れは妻も負ふ 林火

船の畳を蟻はいそぎぬ能登の果 楸邨

あめつちの静かなる日も蟻急ぐ 鷹女

蟻を瞳にひとり途方に昏れてゐる 鷹女

蟻手を這ひひそかなること何も持たず 綾子

迷ふ蟻追ふも殺すもひとりの吾れ 節子

蟻という字生きて群がるパンの屑 三鬼

黒蟻の吐息の黝き無風帯 鷹女

古庭にさも定まりて蟻の道 草田男

甘きもの蟻にふらして基地忘る 不死男

膝咬みし大きな蟻よ妙心寺 青畝

絹の上蟻は響きを持たざりき 楸邨

日本にこの生まじめな蟻の顔 楸邨

働く蟻よ勤勉は美徳ならずとよ 風生

山蟻は読むものを踏みためらはず 風生

蟻出でて幹にも道をはじめけり 爽雨

禅苑をあゆむまにまに蟻さだか 爽雨

生まれきて蟻なりければ蟻の列 楸邨

てのひらの蟻に重みのあるごとし 楸邨

蟻どもをあはれあはれと潰しをり 楸邨

蟻這はすいつか死ぬ手の裏表 不死男

疾駆して蟻はだんだん小さくなる 楸邨