歩く蟻飛ぶ蟻われは食事待つ
貧なる父玉葱噛んで気を鎮む
無花果をむくや病者の相対し
かゆき夏果てぬすつくと曼珠沙華
落ちざりし青柿躍る台風後
台風が折りし向日葵伐り倒す
木犀一枝暗き病廊通るなり
秋の夜の漫才消えて拍手消ゆ
石の上に踊るかまきり風もなし
赤蜻蛉来て死の近き肩つかむ
頭覚めよ崖にまざまざ冬木の根
歩くのみの冬蠅ナイフあれば甜め
練炭の臭き火税の紙焦す
屋上を煤かけめぐる医師の冬
冬耕をめぐり幼な子跳ね光る
冬日見え鴉かたまり首伸ばす
硝子戸が鳴り出す林檎食はれ消え
父掘るや芋以上のもの現れず
声太き牛の訴へ寒青空
対岸の人と寒風もてつながる
寒の重さ戦の重さ肢曲げ寝る
脳天に霰を溜めて耶蘇名ルカ
洗礼経し頭を垂れて炭火吹く
ルカの箸わが箸鍋の肉一片
同根の白菜食らひ友は使徒