和歌と俳句

西東三鬼

歩く飛ぶ蟻われは食事待つ

貧なる父玉葱噛んで気を鎮む

無花果をむくや病者の相対し

かゆき夏果てぬすつくと曼珠沙華

落ちざりし青柿躍る台風後

台風が折りし向日葵伐り倒す

木犀一枝暗き病廊通るなり

秋の夜の漫才消えて拍手消ゆ

石の上に踊るかまきり風もなし

赤蜻蛉来て死の近き肩つかむ

頭覚めよ崖にまざまざ冬木の根

歩くのみの冬蠅ナイフあれば甜め

練炭の臭き火税の紙焦す

屋上を煤かけめぐる医師の

冬耕をめぐり幼な子跳ね光る

冬日見え鴉かたまり首伸ばす

硝子戸が鳴り出す林檎食はれ消え

父掘るや芋以上のもの現れず

声太き牛の訴へ寒青空

対岸の人と寒風もてつながる

寒の重さ戦の重さ肢曲げ寝る

脳天にを溜めて耶蘇名ルカ

洗礼経し頭を垂れて炭火吹く

ルカの箸わが箸鍋の肉一片

同根の白菜食らひ友は使徒