梅雨の山立ち見る度に囚徒めく
ワルツやみ瓢箪光る黴の家
黴の家泥酔漢が泣き出だす
黴の家去るや濡れたる靴をはき
悪霊とありこがね虫すがらしめ
滅びつつピアノ鳴る家蟹赤し
蟹と居て宙に切れたる虹仰ぐ
雲立てり水に死にゐて蟹赤し
深夜の歯白し青梅落ちつづく
晩婚の友や氷菓をしたたらし
ごんごんと梅雨のトンネル闇屋の唄
枝豆の真白き塩に愁眉ひらく
月の出の生々しさや湧き立つ蝗
こほろぎが女あるじの黒き侍童
甘藷を掘る一家の端にわれも掘る
炎天やけがれてよりの影が濃し
炎天の墓原独り子が通る
青年に長く短く星飛ぶ空
モナリザに仮死いつまでもこがね虫
秋雨の水の底なり蟹あゆむ
紅茸を怖れてわれを怖れずや
紅茸を打ちしステツキ街に振る
耕せり大秋天を鏡とし
父と子の形同じく秋耕す
老農の鎌に切られて曼珠沙華