餅搗きし父の鼾声家に満つ
麦の芽が光る厚雲割れて直ぐ
わが汽笛一寒燈を呼びて過ぐ
みどり児も北ゆくふゆの夜汽車にて
北国の地表のたうつ樹々の根よ
冬青きからたちの雨学生濡れ
日本海の青風桐の実を鳴らす
黙々北の農婦よ鱈の頭買ふ
雪嶺やマラソン選手一人走る
冷灰の果雪嶺に雪降れり
春暁へ貧しき時計時きざむ
病者起ち冬が汚せる硝子拭く
病者の手窓より出でて春日受く
わらわらと日暮れの病者桜満つ
雷の雲生まれし卵直ぐ呑まれ
診療着干せば嘲る麦の風
黄麦や渦巻く胸毛授けられ
梅雨の卵なまあたたかし手醜し
崖下へ帰る夕焼頭より脱ぎ
向日葵を降り来て蟻の黒さ増す
梅雨の坂人なきときは水流る
がつくりと祈る向日葵星曇る
唄きれぎれ裸の雲を雷照らす
敗戦日の水飲む犬よわれも飲む