和歌と俳句

西東三鬼

孕みつつあり夜間飛行の灯

赤蜻蛉分けて農夫の胸進む

豊年や松を輪切にして戻る

豊年や牛のごときは後肢跳ね

枯原を奔るや天使図脇ばさみ

そのあたり明るく君が枯野来る

西赤し支離滅裂の枯蓮

赤き肉煮て食ふ蜜柑山の上

姉の墓枯野明りに抱き起す

三輪車のみ枯原に日は雲に

柩車ならず枯野を行くはわが移転

火の玉の日が落つ凍る田を残し

枯野の木人の歯を抜くわが能事

かじかみて貧しき人の義歯作る

氷の月公病院の畑照らす

モナリザ常に硝子の中やつづく

掘り出され裸の根株が降る

煙突の煙あたらし乱舞の雪

過去そのまま氷柱直下に突刺さる

供華もなし故郷の額打つ

雪山に雪降り友の妻も老ゆ

垂れ髪に雪をちりばめ卒業

崖下のかじかむ家に釘を打つ

枝鳴らす枯木の家に倒れ寝る

いつまで母子病棟の硝子鳴り