稲孕みつつあり夜間飛行の灯
赤蜻蛉分けて農夫の胸進む
豊年や松を輪切にして戻る
豊年や牛のごときは後肢跳ね
枯原を奔るや天使図脇ばさみ
そのあたり明るく君が枯野来る
西赤し支離滅裂の枯蓮に
赤き肉煮て食ふ蜜柑山の上
姉の墓枯野明りに抱き起す
三輪車のみ枯原に日は雲に
柩車ならず枯野を行くはわが移転
火の玉の日が落つ凍る田を残し
枯野の木人の歯を抜くわが能事
かじかみて貧しき人の義歯作る
氷の月公病院の畑照らす
モナリザ常に硝子の中や冬つづく
掘り出され裸の根株雪が降る
煙突の煙あたらし乱舞の雪
過去そのまま氷柱直下に突刺さる
供華もなし故郷の霰額打つ
雪山に雪降り友の妻も老ゆ
垂れ髪に雪をちりばめ卒業す
崖下のかじかむ家に釘を打つ
枝鳴らす枯木の家に倒れ寝る
いつまで冬母子病棟の硝子鳴り