和歌と俳句

西東三鬼

女呉れし餅火の上に膨張す

餅食へば山の七星明瞭に

餅を食ひ出でて深雪に脚を挿す

春山を削りトロツコもて遊ぶ

雨の雲雀次ぎ次ぎわれを受渡す

祝福を雨の雲雀に返上す

春の昼樹液したたり地を濡らす

暗闇に海あり咲きつつあり

体内に機銃弾あり卒業

青年皆手をポケツトに桜曇る

岩山に生れて岩の黒し

粉黛を娯しむ蝌蚪の水の上

春に飽き真黒き蝌蚪に飽き飽きす

天に鳴る春の烈風鶏よろめく

烈風の電柱に咲き春の星

冷血と思へおぼろ野犬吠ゆる

蝌蚪曇るまのこ見ひらき見ひらけど

一石を投じて蝌蚪をかへりみず

くらやみに蝌蚪の手足が生えつつあり

黒き蝶ひたすら昇る蝕の日へ

塩田やかげろふ黒し蝶いそぐ

塩田の黒砂光らし音なき雷

蚊の細声牛の太声誕生日

熟れてあたたかき闇充満す

蟹が目を立てて集る雷の下