女呉れし餅火の上に膨張す
餅食へば山の七星明瞭に
餅を食ひ出でて深雪に脚を挿す
春山を削りトロツコもて遊ぶ
雨の雲雀次ぎ次ぎわれを受渡す
祝福を雨の雲雀に返上す
春の昼樹液したたり地を濡らす
暗闇に海あり桜咲きつつあり
体内に機銃弾あり卒業す
青年皆手をポケツトに桜曇る
岩山に生れて岩の蝶黒し
粉黛を娯しむ蝌蚪の水の上
春に飽き真黒き蝌蚪に飽き飽きす
天に鳴る春の烈風鶏よろめく
烈風の電柱に咲き春の星
冷血と思へおぼろ野犬吠ゆる
蝌蚪曇るまのこ見ひらき見ひらけど
一石を投じて蝌蚪をかへりみず
くらやみに蝌蚪の手足が生えつつあり
黒き蝶ひたすら昇る蝕の日へ
塩田やかげろふ黒し蝶いそぐ
塩田の黒砂光らし音なき雷
蚊の細声牛の太声誕生日
麦熟れてあたたかき闇充満す
蟹が目を立てて集る雷の下