和歌と俳句

螽 蝗 いなご

月よしと小梛をのぼるいなご丸 暁台

ばらばらと脛に飛びつく螽哉 一茶

みぞ川をおぶさつてとぶ螽哉 一茶

鎌の刃をくぐり巧者の螽哉 一茶

あぜ道や稲をおこせば螽飛ぶ 子規

菅笠に螽わけゆく野路哉 子規

刈株に螽老い行く日数かな 子規

我袖に来てはね返る螽かな 子規

稲刈りてにぶくなりたる螽かな 子規

螽とぶ音筬に似て低きかな 虚子

長橋の手欄に居りし螽かな 石鼎

水を挟みて飛び競ふ蝗の真昼 山頭火

飛ぶ螽傘持て来しが悔いらるる 汀女

笠紐を垂る大露やいなごとり 蛇笏

野路朗ら袋蹴りゐる螽かな 喜舟

蝗落ちて広がる波や甕の水 泊雲

ふみ外づす蝗の顔の見ゆるかな 虚子

螽皆居向をかふる家路かな 青畝

道の上に大安日の蝗かな 誓子

墨染の僧にとび交ふ螽かな 石鼎

掌をふせては蝗とる子かな 石鼎

一斉に顔かくしける螽かな 青畝

ゆるやかに向き倣ひゆく螽かな 青畝

葉末なる螽も顔をかくすなり 青畝

笠の蝗の病んでゐる 山頭火

死ぬるばかりの蝗を草へ放つ 山頭火

放ちやる蝗うごかない 山頭火

父母のある児に負けず蝗追ふ かな女

苫舟を蝗のつぶて打ちにけり 秋櫻子

豊の穂をいだきて螽人を怖づ 青邨

夕焼けて火花の如く飛ぶ蝗 花蓑

子を連れて古女房や蝗とり 淡路女

さしのばす手の輝きて蝗取 汀女

あちこちに蝗取居り顔を上ぐ 汀女

この頃の憂きこと晴れ蝗捕 立子

秬焚や青き螽を火に見たり 波郷

門田なる蝗の日和ここ暫し たかし

一字や蝗のとべる音ばかり 秋櫻子

船まつや不知火の海蝗とび 多佳子

枯畦に生ける音ある蝗かな たかし

月の出の生々しさや湧き立つ蝗 三鬼

ここに生れて油塗れに這ふ蝗 楸邨

コスモスに遊ぶ蝗も潮来宿 風生

昔がたり露をちらして蝗とぶ 万太郎

蝗飛び日は暈着たり石舞台 秋櫻子

輪塔にすがる蝗や裏おもて 秋櫻子

流れきし蝗が二つ縋りあふ楸邨