芋畑に白浪しぶく野分かな
木の間月葡萄剥く間も止まらず
山萩に淋漓と湖の霧雫
霧はひて林没るる花野かな
桃色の雲より落とす秋の風
粧ひて一切経はとはに燃ゆ
稲架とけば菊畦に伏し淋しがる
夜の濁り今朝とく澄みて紅葉川
なめらかに蛇ものぼりたる磴の秋
翠屏に霧たちわたる滝谺
潭壑に紫したたる秋の翳
峡暮れてとび散る雲にのみ秋日
秋晴や道にも敷きて伊良湖石
赤富士に露滂沱たる四辺かな
赤富士に万籟を絶つ露の天
秋涼し湖の渚に瓜二葉
コスモスに遊ぶ蝗も潮来宿
無花果に田舟舫へり歌枕
義理欠きてわが身を愛す秋深し
汝がたてば紫苑の丈けの立ち揃ふ
雲の間に邃くて近し秋の天
万葉のこころに濡れて秋の草
蜆蝶ならざるものも秋の蝶
木犀を年よりの日の壺に愛す
秋雲は松の秀に触り滞る
葉月なる堅縞あらし男富士
霧こめて四顧邯鄲の声ばかり
桟橋は湖の触覚秋風に
濃紅葉を古歌のまにまに手向草
起ちて灯し灯して座り秋夕べ
蜻蛉の微のまぎれずに秋の天
少女期は何か食べ萩を素通りに
鯊を釣る女の執念一途なる
盆の月お山の空は夜もあおし
盆棚のうしろは深谷霧の海
鶴翼を左右に張りたる湾の秋
歌枕ゑのころ草に碑を据ゑて
稲架かげにわが身さながらうづくまる
富士薊触れんとしたるのみに刺す
桔梗を土に横たへ新帰元
火祭を熱や熱やと轡蟲
火祭のふかく灯して上文司
火祭の幣ひろひろと御師の宿
湖の村祭してをる帰燕かな
蟲の声月よりこぼれ地に満ちぬ
伐株のおもて傾く深山霧
落日の大団円や秋の潮
豊満の美に佛性や紅芙蓉
らくがきに句碑は汚れし富士薊
女童らお盆うれしき帯を垂れ
木道に孤影わがひき秋深し
はたはたのとべるはるかに礁富士
秋の雲愁のごとく刷けるかな