本栖湖

晶子
本栖湖をかこめる山は静かにて烏帽子が岳に富士おろし吹く

晶子
本栖の湖地にしたたりし大空の藍の匂ひのかんばしきかな

晶子
空破れ富士燃ゆるとも本栖湖の青犯されず静かならまし

白秋
本栖の湖　かがよふ見れば　水皺立ち　霧ながれをり　流るとなしに

白秋
本栖の湖　雲去来して　み冬なり　こちごちに光る　しろがねの面

白秋
雲の遠に　南アルプスと　思ふ雪　かがやき列竝み　本栖湖暗し

波立てて霧来る湖や女郎花　秋櫻子

山中湖

合歓かげに舟のけむりや山中湖　蛇笏

晶子
わが目には暗きところの見えずして白くさびしき山中の湖

晶子
富士の雲つねに流れて束の間も心おちゐぬ山中の湖

漕ぎ出でて倒富士見えず水馬　久女

白秋
山中湖あかつき近し落葉松や目もさむざむと向ふ雨霧

山中の帆に高西風のつばくらめ　蛇笏

秋風の俄に荒し山の庵　虚子

禊ぐ秋山中湖波をひそめたり　蛇笏

夏至の雨娘ひとり舟をただよはす　蛇笏

山中湖凧のあがれる小春かな　素十

ひろびろと富士の裾野の西日かな　虚子

富士ひくし湖そひゆけばしどみ咲く　蛇笏

富士をこえみづうみをうつはつ燕　蛇笏

燕むれ湖は春ゆくヨットの帆　蛇笏

湖を瞰ていこへばここに暮の春　蛇笏

避暑の宿寂莫として寝まるなり　虚子

冬ぬくく富士に鳶啼く山中湖　蛇笏

山萩に淋漓と湖の霧雫　風生

霧はひて林没るる花野かな　風生

鷹消えて凛とうすうす梅雨の冨士　悌二郎

老鶯の朗々絶えず湖暮れず　悌二郎

湖茫々もとより淡き梅雨の冨士　悌二郎