北原白秋

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本栖の湖 かがよふ見れば 水皺立ち 霧ながれをり 流るとなしに

本栖の湖 雲去来して み冬なり こちごちに光る しろがねの面

一色に 幽けかるなり 時じくを みづうみの面へ 吹きおろす雲

雲の遠に 南アルプスと 思ふ雪 かがやき列竝み 本栖湖暗し

み冬の 雲もこごるか 我が湖と 木立神さび 黒く隠らふ

夏すでに 砂丘の光 おぎろなし 弘法麦の 筆の穂のいろ

砂山の 茱萸の藪原 夏まけて 花了りけり 真砂積む花

海荒く 砂丘のい照り 涯し無し 燈台が見ゆ 赤き燈台

港には 装ましろき 船いくつ 夏はさやかに 雲流れ見ゆ

数珠茅に 夕づく日ざし 柔らなり 穂のまだ伸びぬ 青き数珠茅

挙り出る この国原の 田植どき 植うるかぎりが 田にとよみつつ

挙り出て 苗ひき植うる 田植笠 早やおもしろし うなかぶしつつ

日おもての たも木に霧らふ 夏がすみ 植うる田も見ゆ 早苗田も見ゆ

山里は 家の南の 田竝びを 皆出て居らし 植ゑそもにけり

弥彦の 夏山霞 ただならず 国上は末に うち低みつつ

おほかたは 田を植ゑ竝めぬ 道の手に たもの若葉の 照り交ふ見れば

赤々と こくれんぐわしの 毛は垂れて 田へ行く子らに 朝そよぐなり

和歌と俳句