鳥頭 漆胡瓶 かすかなり しろがねの鎖 うつつにぞ曳く
昴窒フ 花文の象は ましろくて ただに浄らの 命寂びたり
樹の下に 出で立つ女 丹の頬して 陽は豊かなる 香はしき空
ほのぼのと 貴き昼は 我が入りて 宝蔵の古りし 墨に思はむ
金銅の こごる鳥首 水瓶の 口ほそうして み冬なるなり
雑塵の 遠世の裹 うち透かし 吾れ命あれや 光り息づく
をとめ子の 紅牙の尺は 花鳥の 目もあやにして 稚かりけり
黒柿の 蘇枋の絵箱 山水の ながらふる音は しろがねに描く
日の照りて 櫻しづけき 法隆寺 おもほえば遠き 旅にありにき
朱砂の門 春はのどけし 案内者の 煙管くはえて つい居る見れば
春日向 人影映る 東院の 築地がすゑに 四脚門見ゆ
菫咲く 春は夢殿 日おもてを 石段の目に 乾く埴土
夢殿に 太子ましまし かくしこそ 春の一日は 闌けにたりけめ
夢殿や 美豆良結ふ子も 行きめぐり をさなかりけむ 春は酣は
日ざしにも 春は闌くるか 夢殿の 端反いみじき 八角円堂
馬酔木咲く 春日の宮の 参り路を 蝙蝠傘催合ひ 子ら日暮なり
夕寒き 庇のつまに 影あるは 燈籠吊れり 雨のふりつぐ
春日の 夕闇の廻廊 行くほどは ほの明りありて 霧の春雨
梛の葉に ふる雨見れば しらしらと 含む馬酔木も 夜の目には見ゆ
大仏殿 にほふ霞の 外に据ゑて 灌仏堂は 小さき花御堂