北原白秋

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木製の 羽折る黒き 大鴉 旅にし冬は 買ひてかかへぬ

秋林を 出て来て思ふ 露西亜の血と 朝鮮とまじり 少女なりにし

国破れ 人はさすらふ 毛ごろもの 氷の粉屑 吹きよごれつつ

凍傷の 膝に藁巻き ゐざりける 爺さが富める 外套は見よ

酒みづき 白髪嫗は 前伏しに その戸の段に 白夜こごえぬ

弾く手には 破れ手風琴も 鳴るらめど 盲目眼は開かず 白夜昼ならず

橋がまへ とどろ退くまも しづかなり わが汽車ゆ見る 結氷のいろ

声はして 夜の汽車の外に 消えにけり 今発ちたるは 蔡家屯ならむ

聞くだにも 寒き鴉の ま冬には 空うづむとふ 街に見あげつ

我が聞きて 声泣くごとし 夜酒欲る 自が外にまた 影もあらぬを

声荒ぶ 幌馬車疾駆し 星近し 三寒にして ひびく暁

外蒙古 西吹きあげて 東する 沙漠の大き 移動をぞ思ふ

み冬の 夕かげあかき 砂の原 空眼薄らに 駱駝来れり

蒙古びと 駱駝追ひつつ 夕べなり 早駈けに乗る 驢馬の後尻

霾らす 黄沙の平 ただならず 日は朱に澱み 蒙古犬吼ゆ

ひた駈けに 黄沙の原を 乗り進む 蒙古の騎馬は 後ろ見ずけり

毛ぶかくて 両の耳蔽ふ 蒙古帽 彼ら怖れず その眼の光

黄沙の原 騎馬走る見れば おのづから 直に専らに 道とほりけり

蒙古児陀羅海 低き沙丘の 起臥の 涯しもしらね 草枯れにけり

蒙古風 吹きもつくすか 石積みて 山はただ一つ 低きオボ山

眼を放つ 草原の枯れ 涯もなし 牛跳躍す 落つる日の前

放射光 日は金色に 凪ぎにけり 地平に寒き 梢の冬楡

未開放地 目も遥かなり 牛馬豚羊 まさしく小さく い群れ移ろふ

和歌と俳句