下総の丘のなだらの曼珠沙華
まつすぐに雨にしたがふ散り柳
蓼の花畚にかぶせて萎れざる
神苑の草紅葉せる詣でかな
前栽の柘榴が笑めるよきまどゐ
誰が結ひし七夕色紙梅ヶ枝に
手にしたる赤のまんまを手向草
行燈さげ老の手をとり蟲の園
里の子の見せじとかばふ菌籠
秋風に鳴る風鈴は道しるべ
篝火のここまでぬくし十三夜
颱風に吹きもまれつつ橡は橡
水澄むと靴を休むる杭がしら
道ばたに伏して小菊の情あり
道の菊杖を停めてあはれみぬ
みなし栗ふめばこころに古俳諧
雁仰ぐ傘傾けて雨もやみ
はればれとたとへば野菊濃き如く
紫のもの紅に末枯るる
秋の庭犬去り猫来また犬来る
轡虫かすかに遠き寝のやすく
秋浜の大きく濡るる波のあと
曼珠沙華恙なく紅褪せつつあり
黍高く秋燈孤なる家かなし
早紅葉にはや冬支度心せき
稲架の稲ただしく垂れて水平ら
はたはたのとびかひ高く雲遠く
太幹のかげより起る秋の風
嵐めく風藤の実にふとしづか
時化過ぎぬ玉蜀黍もさも疲れ
唐黍の葉も横雲も吹き流れ
野分中月は光を得つつあり
道ひろく村の子遊ぶ秋の暮
本読めば本の中より蟲の声
こほろぎのへりたることに気がつきし
栗むいてかなしき話女たち
小鳥来て午後の紅茶のほしきころ
一つ摘み二つ摘み菊籠にみちぬ
挽臼にとりつく母娘葛の宿
手にとりて放ちし萩の枝長し
白菊に起居の塵のおきにけり
花籠を垂るる朝顔朝茶の湯
満山の白露に居る思ひなり
兄弟の墓のよりそふ道の秋
漂へるごとくに露の捨箒
起こしやる紫苑にすぐに烏蝶
一葉に十三夜あり後の月
わが老をわがいとほしむ菊の前
下駄の音ころんと一つ秋ふかし
露の宿槙垣ふかく灯しぬ