和歌と俳句

富士山

富士坐して裳裾秋雲端を撥ね 草田男

秋富士やアララギ古木巨松抱き 草田男

展望の一舟一鳶五月富士 風生

初不二を枯草山の肩に見つ 秋櫻子

黄塵の野面の隅に雪の富士 秋櫻子

紅富士や泰山木は花かかげ 源義

富士つゝみ立つは大寒の入日雲 秋櫻子

かげろうて金輪際や雪解富士 蛇笏

二歩ふめば二歩近づきぬ春の富士 風生

夏富士のひえびえとして夜をながす 龍太

赤富士にの満天満地かな 風生

春富士や仁丹の香が口に充つ 楸邨

青富士やもの高めあふ夏景色 草田男

夏富士や長女野の家宰領す 草田男

赤富士に滂沱たる四辺かな 風生

赤富士に万籟を絶つ露の天 風生

松が根に熊手をおけば春の富士 風生

松原に霓裳を引き春の富士 風生

春二月茶畑の富士窈窕と 風生

あはあはと富士容あり炎天下 風生

富士の霧圧倒し来る月見草 風生

葉月なる堅縞あらし男富士 風生

初富士や蜜柑ちりばめ蜜柑山 波郷

軒端よりただちに崇し青田富士 風生

赤富士に鳥語一時にやむことあり 風生

悌二郎
冨士をひと目許して厚き冬の雲

一片雲もて秋富士を荘厳す 風生

紺天を張り一方に秋の富士 風生

柊の香やあをあをと夜の冨士 悌二郎

冬の雲さすがに冨士を犯すなし 悌二郎

大瀬崎過ぐるや宙に雪の冨士 悌二郎

歪みなき冬田の畦を冨士の前 悌二郎

初富士の玲瓏巨き創あをし 悌二郎

万緑の中富士とわが一対一 風生

四時起きに残雪の富士起きゐたり 誓子

山小屋に寝たり丸太を枕とし 誓子

残雪の富士吾が登る道を空け 誓子

富士山頂吾が手の甲に蠅とまる 誓子

富士山を覆ひし雪の残に触る 誓子

秋暁の大青富士の仰がるる 悌二郎

富士失せて後ただ霧の唐辛子 悌二郎

爽雨
笠雲は紐をもたれぬ冨士小春

一刀に斬りさげし根雪秋の富士 風生

夜登りの富士は足許だけの山 静塔

うつしみの金剛杖の歩幅なる 静塔

みちをしへ富士には隠れ道はなし 静塔

富士銀座法螺吹きならす聖欲し 静塔

朝寒のひとり覚めをる富士とわが 風生

一片の紅葉を拾ふ富士の下 風生