和歌と俳句

富安風生

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桐咲いて働くものの夏来る

草の戸に弓を飾りて業平忌

一掬の涼風たるをもて任ず

夏蜜柑むき緑蔭は二人のもの

分釐の乱れなかりし若楓

緑蔭をやをら起つべき刻来る

鮎の竿のべて林相美しき

左右の山暮れて相似る橋涼み

夏山家一軒すねてとび離れ

ただ一つ困ずることに蠅多し

その時われ八歳なりし合歓の花

子なければ妻とたうぶるさくらんぼ

端居して昨日は今日の昔なる

黄菖蒲が瓦礫に咲ける曇かな

髯剃りしあぎとの青き夏をとこ

筋交の大八文字梅雨の寺

緑蔭の土掻く黴の香を起す

城跡へ狭田を重ねてうつぼ草

夏草や砦構へに狭田長田

麦はざに西日厳しき荒磯かな

夕顔の花と咲きたる憂きさだめ

絵心は百合の瑞葉に金を刷く

一渓を抉りし天斧ほととぎす

野の川を隠さうの咲き垂るる

昨日植ゑてあはれ今日はや植田さび