夏のれん孕めば鵜川見えわたり
鵜舟近き空明りぞと気色だつ
山屹ちて既望を隠す鵜川かな
舳なる座に一の位の荒鵜かな
季梅雨に入れば素直に梅雨籠
一蝶に草木海のごと深し
長鋒をつかひこなして夏書かな
若楓龍田うつしもさまかはり
初蝉の音かすかなる耳順ふ
夏蓬瓦礫をふみて虔しみぬ
碑に鐫りてときはかきはに樟若葉
燈をとりに那須ケ岳より大蛾来る
あるときは湾のへりまで麦の秋
日傘さす版画風景薔薇など咲き
池ひとつ野に忘らるる浮葉かな
青潮に海月深空に昼の月
手に掬ぶ清水にも沁む檜の香
白樺の外はゆるさず歯朶茂る
いと低き幹にも蝉や蝉時雨
高とびて雲居がくれに夏山家
谷深に鬼無里口とや葛がくれ
戸隠の火蛾の白亳朱眼かな
六根に巒気の沁みるほととぎす
土蔵もて史蹟としたり瓜の花
もろこしの花咲くつひの栖かな