深海の魚のごとくに梅雨ごもり
田植唄ほろび風雅の道遺る
軒端まで田を植ゑ来り植ゑ去れる
一生の重さ罪負ふ蝸牛
永久に生く遺語の涼しく刻まるる
天柱を樹てて左右に二瀑落つ
峭然と碑の肩そびえ麦熟るる
河原麦焦げて宗任橋とかや
野馬追の老の歩卒のお馬先
野馬追の緋の母衣孕みおん大将
野馬追の面魂も相馬郷
萱の葉にむかはぎ斬られ露涼し
松の幹咫尺に太し昼寝覚
籐椅子にふと母懐ふゆゑ知らず
ある瀧は玉紫陽花にかくれ瀧
古道をいたはり遺す青芒
杖一竿洋書若干古籐椅子
不幸なる鮎のあがりし竿あがる
さめざめと泣きし夢さめ明易き
避暑荘にかく居ることの老後かな
富士の霧圧倒し来る月見草
俳諧の行住坐臥や夏来る
木石の濡れてうべなふ梅雨深し