和歌と俳句

富安風生

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

深海の魚のごとくに梅雨ごもり

田植唄ほろび風雅の道遺る

軒端まで田を植ゑ来り植ゑ去れる

一生の重さ罪負ふ蝸牛

永久に生く遺語の涼しく刻まるる

天柱を樹てて左右に二瀑落つ

痩せて渋民村の名もほろぶ

峭然と碑の肩そびえ熟るる

河原麦焦げて宗任橋とかや

野馬追の老の歩卒のお馬先

野馬追の緋の母衣孕みおん大将

野馬追の面魂も相馬郷

萱の葉にむかはぎ斬られ露涼し

松の幹咫尺に太し昼寝覚

籐椅子にふと母懐ふゆゑ知らず

ある瀧は玉紫陽花にかくれ瀧

古道をいたはり遺す青芒

杖一竿洋書若干古籐椅子

不幸なるのあがりし竿あがる

さめざめと泣きし夢さめ明易き

避暑荘にかく居ることの老後かな

あはあはと富士容あり炎天下

富士の霧圧倒し来る月見草

俳諧の行住坐臥や夏来る

木石の濡れてうべなふ梅雨深し