和歌と俳句

炎天

炎天の犬や人なき方へ行く 誓子

炎天に芥焼く火ぞすさまじき 草城

炎天に黒き喪章の蝶とべり 草城

炎天に雷蝶の羽搏つ音 草城

炎天下大木の挽き切られたる 草城

炎天にあるきだしをり舌出して 楸邨

鮒を藺にさして通れり炎天に 綾子

影のみがわが物炎天八方に 三鬼

炎天の少女の墓石手に熱く 三鬼

炎天に火を焚く墓と墓の間 三鬼

炎天の女の墓石手に熱く 三鬼

喜劇見て炎天のもの皆歪む 林火

永平寺出て炎天の女体かな 楸邨

炎天へ蝶まつすぐにまつすぐに 鷹女

帯売ると来て炎天をかなしめり 鷹女

炎天やけがれてよりの影が濃し 三鬼

炎天の墓原独り子が通る 三鬼

炎天を来て湯を浴びる音を立て 林火

炎天へまひるの炎つつつつと 楸邨

炎天充つ青年と影を同じうし 不死男

炎天を来て砂浜を更にゆく 波津女

炎天や手鏡きのふ破れて無し 信子

炎天の家に火を放け赤子泣く 朱鳥

老眼に炎天濁りあるごとし 虚子

炎天の坂や怒を力とし 三鬼

炎天へ孤児の孤影を引つぱり出す 不死男

炎天や友亡きのちも憂苦満つ 波郷

炎天に焔となりて燃え去りし 綾子

鶏の骨たゝく炎天の一方澄み 綾子

炎天の農家入口暗い穴 欣一

炎天や地に分配の塩こぼれ 欣一

炎天に英彦山の瘤りうりうと 朱鳥

炎天に腕を上げて杉立てり 朱鳥

炎天や雀降りくる貌昏く 多佳子

炎天に松の香はげし斧うつたび 多佳子

炎天の梯子昏きにかつぎ入る 多佳子