蕗を煮る男に鴉三声鳴く
夜が来る数かぎりなき葱坊主
五月闇汝帰りしには非ず
青梅が闇にびつしり泣く嬰児
緑蔭より日向へ孤児の眼が二点
蟻地獄暮れてしまへり立ち上る
蛍過ぎ海まつくらに荒れつのる
海道の夜明けを蟹が高走る
眼中の蓮も揺れつつ夜帰る
あひびきの少女とび出せり月夜の蝉
蚊帳の蚊を屠る女の拍手音
びびびびと死にゆく大蛾ジャズ起る
天暑し孔雀が啼いてオペラめく
逃げても軍鶏に西日がべたべたと
旱天の鴉胸より飛び出しか
夏の闇火夫は火の色貨車通る
影のみがわが物炎天八方に
甲虫縛され忘れられてあり
緑蔭に刈落されし髪のこる
稲妻に胸照らさるる時若し
炎天の少女の墓石手に熱く
墓の前強き蟻ゐて奔走す
墓の地に一滴の汗すぐ乾く
墓原に汗して老ひし獣めく
炎天に火を焚く墓と墓の間