和歌と俳句

西東三鬼

を煮る男に鴉三声鳴く

夜が来る数かぎりなき葱坊主

五月闇汝帰りしには非ず

青梅が闇にびつしり泣く嬰児

緑蔭より日向へ孤児の眼が二点

蟻地獄暮れてしまへり立ち上る

過ぎ海まつくらに荒れつのる

海道の夜明けを蟹が高走る

眼中のも揺れつつ夜帰る

あひびきの少女とび出せり月夜の蝉

蚊帳のを屠る女の拍手音

びびびびと死にゆく大蛾ジャズ起る

天暑し孔雀が啼いてオペラめく

逃げても軍鶏に西日がべたべたと

旱天の鴉胸より飛び出しか

夏の闇火夫は火の色貨車通る

影のみがわが物炎天八方に

甲虫縛され忘れられてあり

緑蔭に刈落されし髪のこる

稲妻に胸照らさるる時若し

炎天の少女の墓石手に熱く

墓の前強きゐて奔走す

墓の地に一滴の汗すぐ乾く

墓原に汗して老ひし獣めく

炎天に火を焚く墓と墓の間