和歌と俳句

西東三鬼

元日を白く寒しと昼寐たり

寒雀人の夜明けの軽からぬ

大寒の猫蹴つて出づ書を売りに

火事赤し一つの強き星の下

限りなく降る何をもたらすや

地に消ゆるまで一片の雪を見る

天の雪地に移りたり星光る

大寒のトンネル老の眼をつむる

雑炊や猫に孤独といふものなし

寒鮒を殺すも食ふも独りかな

秒針の強さよ凍る沼の岸

沖遠しかがみて寒き貝を掘る

紅梅を去るや不幸に真向ひて

竹林を童子と覗く春夕べ

寒明けの樹々の合掌声もなし

動かぬ前後左右に墓ありて

わが天に蝶昇りつめ消え去りし

花冷えの朝や岩塩すりつぶす

桜くもり鏡に写す孤独の舌

春の夜の暗黒列車子がまたたく

断層の夜明けをが這ひのぼる

うぐひすや子に青年期ひらけつつ

子を思ひはじむ山中の春の沼

春草に伏し枯草をつけて立つ

黒蝶は何の天使ぞ誕生日