元日を白く寒しと昼寐たり
寒雀人の夜明けの軽からぬ
大寒の猫蹴つて出づ書を売りに
火事赤し一つの強き星の下
限りなく降る雪何をもたらすや
地に消ゆるまで一片の雪を見る
天の雪地に移りたり星光る
大寒のトンネル老の眼をつむる
雑炊や猫に孤独といふものなし
寒鮒を殺すも食ふも独りかな
秒針の強さよ凍る沼の岸
沖遠しかがみて寒き貝を掘る
紅梅を去るや不幸に真向ひて
竹林を童子と覗く春夕べ
寒明けの樹々の合掌声もなし
動かぬ蝶前後左右に墓ありて
わが天に蝶昇りつめ消え去りし
花冷えの朝や岩塩すりつぶす
桜くもり鏡に写す孤独の舌
春の夜の暗黒列車子がまたたく
断層の夜明けを蝶が這ひのぼる
うぐひすや子に青年期ひらけつつ
子を思ひはじむ山中の春の沼
春草に伏し枯草をつけて立つ
黒蝶は何の天使ぞ誕生日